北九州障害者居住サポートセンターでの日々の活動についてリアルタイムに報告します。
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今年の直木賞受賞作「蜩の記」(葉室 麟作)を読んだ。
幽閉先での家譜編纂と10年後の切腹を命じられた男と、その男のもとに、遣わされた若者を軸に物語は淡々と、美しく展開していく。
家譜編纂を終えて、長久寺へ出向いての一コマ・・
・・
「そろそろ仕上がるころだと思っておったが、ようようできたようですな」と(慶仙和尚は)顔をほころばせた。
「さよう。出来ましてございます」
秋谷は安堵した表情を浮かべて言った。
「ならば、もはや思い残すことはないか」
慶仙はさらりと聞いた。秋谷は首肯して答えた。
「薫の祝言と郁太郎の元服も見届けることができ申した。もはや、この世に未練はござりませぬ。」
「さて、それはいかぬな。まだ覚悟が足りぬようじゃ」
慶仙は顔をしかめた。秋谷は片頬を緩めた。
「ほう、覚悟がたりませぬか」
「未練がないと申すは、この世に残るものの心は気遣っておらぬと言っておるに等しい。この世をいとおしい、去りとうない、と思うて逝かねば、残された者が生き暮れよう」
「なるほどさようなものでござりまするか」
秋谷は考えを巡らすように中庭に目を遣った。夏の厳しい日差しが照りつけて、山々を青く輝かせている。
慶仙はふむとうなづいて言葉を続けた。
「まさしく源吉はさような思いで逝ったに違いなかろう。おのれの生死を忘れ、いまも家族や友をいとおしんでおるのではあるまいかな」
秋谷は目を閉じてしばらく考えてから瞼を開いた。
「ご教示ありがたく存じます。仰せのとおり、未練なくあの世へ参るなどと申しては、生悟りだと謗られてもやむをえませむな。やはり逝くのはせつないものでござりまする」
「そなたの未練は・・」
・・・
主人公の戸田秋谷を筆頭として、その家族、檀野庄三郎、慶仙和尚、松吟尼・・登場人物の一人一人がとても魅力的である。
しかし、私の中では幼くも死んでいった「源吉」が愛おしい・・、子供だが大人を見せつけられる・・
久々に、凛と、背筋を延ばされた気がします・・

幽閉先での家譜編纂と10年後の切腹を命じられた男と、その男のもとに、遣わされた若者を軸に物語は淡々と、美しく展開していく。
家譜編纂を終えて、長久寺へ出向いての一コマ・・
・・
「そろそろ仕上がるころだと思っておったが、ようようできたようですな」と(慶仙和尚は)顔をほころばせた。
「さよう。出来ましてございます」
秋谷は安堵した表情を浮かべて言った。
「ならば、もはや思い残すことはないか」
慶仙はさらりと聞いた。秋谷は首肯して答えた。
「薫の祝言と郁太郎の元服も見届けることができ申した。もはや、この世に未練はござりませぬ。」
「さて、それはいかぬな。まだ覚悟が足りぬようじゃ」
慶仙は顔をしかめた。秋谷は片頬を緩めた。
「ほう、覚悟がたりませぬか」
「未練がないと申すは、この世に残るものの心は気遣っておらぬと言っておるに等しい。この世をいとおしい、去りとうない、と思うて逝かねば、残された者が生き暮れよう」
「なるほどさようなものでござりまするか」
秋谷は考えを巡らすように中庭に目を遣った。夏の厳しい日差しが照りつけて、山々を青く輝かせている。
慶仙はふむとうなづいて言葉を続けた。
「まさしく源吉はさような思いで逝ったに違いなかろう。おのれの生死を忘れ、いまも家族や友をいとおしんでおるのではあるまいかな」
秋谷は目を閉じてしばらく考えてから瞼を開いた。
「ご教示ありがたく存じます。仰せのとおり、未練なくあの世へ参るなどと申しては、生悟りだと謗られてもやむをえませむな。やはり逝くのはせつないものでござりまする」
「そなたの未練は・・」
・・・
主人公の戸田秋谷を筆頭として、その家族、檀野庄三郎、慶仙和尚、松吟尼・・登場人物の一人一人がとても魅力的である。
しかし、私の中では幼くも死んでいった「源吉」が愛おしい・・、子供だが大人を見せつけられる・・
久々に、凛と、背筋を延ばされた気がします・・
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